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諫早湾干拓工事と有明海

教育総合演習:総合学習の研究レポート 担当教員:大和田悠

むつごろう

テーマ:諫早湾の潮受堤防を開門し元の干潟へ戻すべきか

Ⅰ.はじめに

本レーポートは「諫早湾の開門」を行い、「出来る限り元の干潟に戻す」ことを主張することを目的とする。そのために、諫早湾干拓工事後の諫早湾と有明海の変化(自然環境、漁民、農民)を明らかにし(Ⅱ節)、諫早湾の概要と特徴を捉え(Ⅲ節)、次に干拓事業を推進した国と長崎県の干拓事業計画と経過、及び問題的を指摘する(Ⅳ節)。また、本来の漁民や農民の要望や干拓農地の問題点を指摘する(Ⅴ節)。日本で初めての大規模干拓工事で、同等の事例がないこともあり、諸外国の干拓事業を考察する(Ⅵ節)。最後に諫早湾の開門の結果について論じる(Ⅶ)。

Ⅱ.干拓工事後の諫早湾と有明海の変化と漁民と旧漁民の対立

1.漁獲量

漁獲量は1979年をピークに全般的に減少化傾向にある。1980年を基準にして、総漁獲量は2003年に20%まで落ち込む、貝類は1980年代から減少を続け2001年には約10%まで減少した。また漁類は1980年に比べて2001年には40%、水産動物は50%水準まで落ち込んでいった。1997年に全ての漁獲種が急激に低落傾向となる。実際、農業生産額は総事業費2490億に対し、年額45億と報道されている。一方、干拓事業の影響が深刻なノリ生産は黒いダイヤともいわ年間悪い時でも300億位である。

2.ノリの生産量

有明海のノリの生産は潮受け堤防が絞められた1997年以前には、年間の生産量は年の40億枚(全国40%)、生産額は400億円(全国の40%)を占め、有明海の干潟は全国の40%である。1998年から減少し始め2000年の冬に歴史的なノリの不作が大問題となる。

3.魚類

有明海だけに(特産種)23種が生息しており、主に有明海(準特産種)に生息しているのは40種以上生息している。有明海には74科(147種類)の魚類、特産種は4科7種生息している。ハゼ科(ムツゴロウ、ハゼグチ、ワラスボ)、シラウオ科(アリアケシラウオ、アリアケヒメシラウオ)、カタクチイワシ科(エツ)、カジカ科(ヤマノカミ)など。

4.貝類

重要な漁獲対象の貝類はアサリ、タイラギ、サルボ、アゲマキである。アサリの年間生産量は1969年約6600トンで全国の42%(1977年)、1980年代より減少し始め1990年、年当たり1000~3000トン。有明海の奥の西側では1993年以降タイラギは殆ど生息しない。東側では大牟田周辺のみ生息している。

5.エビ、カニの漁業

エビ類は1980年代初めには1200トン、2006年約400トン。カニ類は1980年代半ば約2000トン、2006年200トンに低下。

6.渡り鳥

シギ、チドリ類、カモメ類、サギ類などの水鳥が中心に大部分が渡り鳥である。その多くは、春と秋の渡りの季節に飛来する旅鳥、越冬季に飛来する冬鳥である。諫早湾の干潟はかって日本最大級のシギ、チドリ類の渡来地であった。春の渡り鳥3500羽(1988年)、秋の渡り鳥1500羽(1988年)、冬の越冬数は4000~7000羽(1988年)。潮受け堤防の締め切後、秋の渡り鳥500~1000羽(1997年)、冬の渡り鳥は10羽と激減した。一部は有明海の干潟で増加した数値もあるが、諫早湾から移動が考えられる。

7.漁民と旧漁民の対立

漁獲量の減少のため自殺者が増えており、漁業が崩壊し干拓工事の現場で働かざるを得ない漁民も多い。また、長年の防災対策が放置され、やもえず干拓事業に賛成した奥部の農民もいる。これら被害者同士が国や県の思惑に翻弄され、最終的には漁民と農民の対立と漁民と旧漁民の対立に追い込まれている。

小長井漁協の漁民たちの建設会社などでつくる「諫早湾干拓事業地元被害者の会」は、佐賀、福岡の漁連が2001年2月~3月にかけて干拓工事を実力で止めたため、この間の仕事ができなかったとして総額3億円の賠償を求め長崎地裁に提訴した(国·県が分断して統治構造にしてしまった)。

Ⅲ.諫早湾の概略図と特徴

1.諫早湾と有明海の概略(図1)

<潮受け堤防の概略>

諫早湾と有明海の潮受け堤防

諫早湾と有明海の潮受け堤防

諫早湾の西部を、長さ7Kmの堤防で閉め切り、35平方キロメートル、有明海の面積の2.1%の広大な干拓·浅海域に900haの農地と2600haの淡水地(調整池)の建設し、南と北に2つの水門がる。北側が200m、南側が50m、合わせて250mである。

堤外の水位が堤内の水位よりも低くなった干潮時に水門を開いて、内部の汚濁した河川水を外へ流している。この汚濁した河川水が有明海を汚染し、また、潮受け堤防により有明海の流れも変わり深刻な状況となっている。

2.諫早湾の特徴

諫早で生まれ育った稚魚が有明海へ出ていく、ことから昔から「有明海の子宮」と言われ、生物生産能力が非常に高い。1975年の日本海洋学会によれば1平方キロの干拓から1年間で22.6トンの生産能力があるとされる。この数字は長崎県の主要な東シナ海底引き漁獲高の10倍といわれ、特に貝類が多産する海域であり、 諫早湾の生物によって1000億円規模の下水処理能力の水質浄化能力があると指摘している(佐々木克之 元水産総合センター室長)。また、有明海は干満の差が日本一大きな海域で諫早湾だけでも5m以上の潮差がある。

Ⅳ.諫早湾干拓事業計画と経過、及び止まらない公共事業(問題点)

1.諫早湾干拓事業計画

長崎県には山間地が多く平坦な農地を確保することが困難な為、用水が確保され生産性の高い農地づくりや畑作物や肉牛の生産を進める。また、台風や集中豪雨による高潮·湾水に対して潮受け堤防と調整して防災機能を持たせる。

1999年の変更計画では、「調整池及びそこを出源とする灌漑用水が確保された対規模で平坦な優良農地を造成し、生産性の高い農地を実現し、高潮·湾水、常時排水不良に対する防災機能」となっている。

2.諫早湾干拓事業の経過

1952年に食糧増産が切望され「長崎大干拓構想」が発せられる。地元の批判を受け紆余曲折後、1986年農林水産省·長崎県により「国営諫早湾干拓事業」とし事業を開始。1989年工事着工。1997年に潮受堤防締まる(ギロチン)。当初(1986年)の計画では3550ha、事業費用1350億円、2000年度完成予定。1999年末に発表された計画変更は84%増しの事業費用2490億円、完成年度は2006年に伸びた。2001年10月の事業見直しでは当初の干拓面積の約半分の960haとなった。干拓事業は漁業に影響を与えたとして、2004年8月に佐賀地裁が工事の差し止めの仮処分の判決を下す。2005年1月に農林水産省の異議申し立て退け工事が中断した。2005年5月の福岡高裁では影響がある定量的な関係が明確ではないとし、佐賀地裁の仮処分決定を取消し、工事が開始される。2005年9月に公害認定の要件の判例にそむく可能性を指摘し高裁では棄却される。2006年現在、約2500人の原告に膨らみ海関係の公害裁判では、水俣病裁判に次ぐ大きな訴訟になっている。

潮受堤防締まる(ギロチン)

3.長崎県の潮受堤防を開門しない理由

開門調査(潮受堤防の開門)を行うと「地域住民の安全·安心な生活」、「農業」、「漁業」、「自然環境」への影響が懸念されるからであるとしている。

4.止まらない公共事業の背景

農林水産省の天下りした公務員は諫早湾干拓工事受注企業36社に257人、コンサルタント会社25社に152人。また干拓工事に関連した2000年度の平均落札率は98.02%とほぼ100%であり「官政談合」が指摘されている。諫早湾干拓事業の熱心な推進者の長崎県知事の選挙の際に自民党長崎県連の前幹事長らが受注企業を主体とする政治献金における不正行為で摘発起訴されている。公共事業にかかわる政·官·財が密接に係っている。

Ⅴ.農民の要望と漁民が干拓事業に賛成した理由、及び干拓農地の問題点

1.農民たちの本来の要望

農民たちは排水不良の改善や地盤沈下の防止など生活環境を世間並に欲しいという要望であり、農水省·長崎県は巨大公共事業を推進するため、「地元の要望があるからとし」事業の正当性を主張している。

2.漁民が賛成せざるを得ない理由

諫早湾の旧堤防は、老朽化し改修工事もされず、放置されたままで、住民(漁民)から堤防の要望が多かった。この改修工事と引き換えに仕方なく仕切り工事を認めたケースが多い。

諫早湾干拓工事に反対する多くの漁師が最終的には容認せざるを得ない一因として、国や県の環境アセスメントの説明で、この事業が有明海の潮汐や潮流れを含め環境に与える影響は無視できるほど小さいとした。

3.小長井漁協の干拓工事の同意

前述の環境アセスメントの説明などにより、工事や潮受堤防建設のために採砂に伴う漁権の一部消滅補償や影響補償など総合約15億円で干拓事業に同意した。組合1人当たり1000万円で、1年分の水揚げに及ばない額である。農水省·長崎県の1986年の環境アセスメントによると、水揚げ高の20%程度の減で有明海の自然に著しく影響を及ぼすものではなく、漁業経営の継続は可能とした。しかし、このアセスメントは東幹夫·長崎大学教授(生物学)によると、諫早湾外の調査は全く行っておらず、調査は小規模である。1989年に工事が始めるとタイラギは1988年に1671トン、1990年に1080トン、1991年に200トン、1993年にゼロとなる。

4.諫早湾干拓工事以前からの農地と干拓農地の問題

1)農地の問題

諫早平野は水源となる後背の山林に乏しく、大きな河川が流れていないので、農業用水は溜池や地下水に頼っている。秋の台風では竜巻によって巻き上げられた海水が稲にかかる塩害が心配される。森山町(図1参照)の干拓では、農業用水として地下水を年間150~200万トン汲み上げており、地盤沈下が深刻な問題である。森山干拓には最初46戸が入植したが、専業農家は5戸に減り、兼業が25戸、残りはすでに離農している(農水省と町役場主導)。干拓による農地も問題であるが、コメの減反や輸入自由化も離農の一因である。

政府の見解によると耕作放棄は高齢化が進み、山間部の傾斜など機械利用が困難な農地など農業上の効率的な利用が見込めない土地が多く存在している。しかし、諫早地方で農地が宅地や工場用に転用されているのは優良農地である諫早平野の中心地である。水田をつぶし、諫早市最大の小学校、2万坪の干拓の里や下水道処理場が建設され、諫早平野では農地がつぶされ続けている(1998年現在)。

2)早干拓の農地問題

野菜は高温多湿なこの土地に適しておらず、台風時には地形的遮へい物がないため、農産物、ビニールハウスなど風害を受けやすく野菜営農は困難が伴う(人参、バレイション、タマネギ、レタスなどが計画野菜)。酪農(ホルスタイン種)は高温多湿に弱く、1頭当たり月排出量(糞尿)は約5トンもり畜産公害が問題視されている。低地帯の地下水の水位に伴う地盤沈下、潮受け堤防の排水門の調整が上手くできない、本明川(図1参照)の川幅が狭くなり、大雨が降った時の洪水などが危惧されている。

Ⅵ.海外の事例

1.オランダ

オランダでは海面がゼロメートルで干拓先進国である。諫早湾干拓工事はオランダの20年前の工事と同じとし、当時オランダでは大洪水が発生し、一度は防災を目的とした大干拓事業が完成したが、様々な議論の後、造成した干拓地を15年の国営事業で元の干潟に回復される工事を行っている。

2.イタリア

1960年代メッサーノ干潟(気水湖)18000haの大規模干拓が行われ、その目的は主に失業対策であった。海底の上の塩分が含まれていたことにより農地に適していなかった。ここから流れ出す汚水がアドリア海の汚染につながり、気水湖に生息した生物たちの浄化能力が極端に落ち込み水質悪化をもたらした。また、産卵場、稚魚の生育場が失われたことによりアドリア海北部の漁獲高が激減し問題となった。この問題に気付くと州あげて干拓地を元に戻す事業が開始された。この元に戻す干拓事業は、環境政策だけではなく、地域経済の振興策として、収益性の低い干拓農地で農業を続けるよりも、湿地環境を再生した方がより収益性が高い。水面よりも低い地なので農地に利用する場合、ポンプ設置など運用費用に大きな経費がかかる。また、水質悪化を防ぐ費用が膨大となる。元に戻せば水を汲み上げる費用を節約でき、湿地の植物や微生物、底生生物により水質悪化のコストを大幅に削減できる。現在この地は、観光客が訪れエコツーリズムメッカとなり、住民も積極的に参加し、湿地の経営によって収益を上げている。再生湿地は、公園、釣り、乗馬、貸し自転車、貸ボートからも収益を得ておりメッザーノ潟で漁獲される豊富な魚介類を使って地域の伝統料理が提供される。地元の高齢者が作った有機野菜や伝統装飾品の土産が人気となっている。これらの事業は全て湿地再生事業に農地を提供した農家と農協で経営されている。環境の保全·再生が真の地域開発とされる。

Ⅶ.諫早湾開門、及びできる限り元の干潟に戻した結果

諫早湾の拓工事は大規模工事のため、短期的には諫早湾と有明海の悪化は避けられないが、長期的には元の干潟に回復し豊富な漁業場となる。その為には干拓地の農家や漁民をはじめ、地域住民、そして国·有明海に属する長崎県·福岡県·熊本県、関係機関の協力が必要である。併せて有明海の注ぐ河川や生活排水処理、そして防災対策が肝要となる。 

私の考は潮受け堤防を全て撤去し元の干潟にすべきと考えるが、撤去に伴う膨大な費用と環境悪化による住民の意識を考慮すると現実的だろうかと躊躇してしまう。本稿のイタリアの事例のように、既存の堤防を生かしながら、「環境保全と観光地としての地域振興」を併せた再生プランを熟慮する必要がある。

Ⅷ.まとめ

本稿で主に諫早湾干拓工事後の変化、及び国と長崎県の諫早湾干拓事業の問題点を指摘し、諫早湾の潮受堤防を開門し出来る限り元の干潟の戻す事を示した。しかし、調査の結果、諫早湾及び有明海の問題は、元に戻すための、「環境保全と観光地としての地域振興」の再生プランの検討、膨大な費用、公共事業の在り方、複雑な自然環境の因子、有明海に注ぐ河川や生活汚水、公害認定の法整備、関係機関の専門家の意見、環境アセスメント、市民の環境意識、政治決断、諸外国の事例の検証など様々な検討事項が多岐に渡っており、十分な主張ができず今後の課題としたいが、日本はラムサール条約や生物多様性条約に加盟し、環境立国とし世界をリードする政策を打ち出しており、現在の民主党政権において本稿で指摘した公共事業に見直しに着手している。従って本稿の方向性は正しいと考える。 

<参考文献>

·宇野木早苗 2006年 「有明海の自然と再生」 築地書館

·長尾俊彦 2005年 「諫早の叫び」 岩波出版

·山下年弘文 1998年 「諫早湾 ムツゴロウ騒動日記」 南方新社

·長崎県のホームページ: 諫早湾干拓事業(http://www.pref.nagasaki.jp/isakan/)

·九州農政局のホームページ:有明海の環境変化と事業との因果関係について

(http://www.maff.go.jp/kyusyu/nn/isahaya/chousa/180119/0_mokuji.htm)

·環境省 自然環境局: 生物多様性センター(http://www.biodic.go.jp/)

·外務省: ラムサール条約(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/jyoyaku/rmsl.html)